「勝負師 孫正義の冒険(上)」「勝負師 孫正義の冒険(下)」読了。
読めば読むほど、この人物の複雑さと矛盾が際立って見えてきた。境界を軽々と越えていく一方で、その強さゆえに孤独を抱え込む──そんな姿が浮かび上がった。
たとえば「インサイダーでありアウトサイダーである」という表現に惹かれたのは、彼が日本社会に根ざしながらも、常に外部の視点を持ち込み翻訳者のように振る舞ったからだろう。外から来た視線と内にいる人間としての立場、その両方を行き来できる存在感が、彼を唯一無二の存在にしている。
また、彼が築こうとした企業連合が、財閥の伝統、シリコンバレーのスピード感、ウォール街の投機的思考を混ぜ合わせたものと本書では記されていて、「境界線を越える」ことを本質としている人なのだと感じた。その境界には国境もあれば倫理もある。
同時に、彼の成長過程に刻まれた自分を信じる強固な自己認識にも目が留まった。失敗を跳ね返す力が、その信念から生まれているのだけれども一方でそれが孤独にし、周囲の人々との関係を緊張させているのかもしれない。
築いた組織の内部は、壮大なビジョンに突き動かされながらも「マサゲーム」とも揶揄されるような混沌に満ちている中で成果を出し続けるのは驚異的であるのと同時に、光と影が入り混じる巨大な組織の姿はいろいろと読みながら思うところがあった。成功を追い続けることと、そこで働く人々の幸福は、必ずしも同じベクトルにはないのかもしれない。
この本を読むことは単なる一人の経営者の評伝を読むことではなく、組織や社会の縮図をのぞき込むことでもあり、そこに映るのは、強烈なリーダーシップと引き換えに抱え込む歪みであり、1つの組織論と言えるのかもしれない。

